院長の部屋 42号 ブータンの智恵
3月に入り、暖かくなってきました。しかし、しばらくの間は寒さが戻ったりして体調管理の難しい季節ですし、花粉症でお悩みの方にはつらい時期です。快適にこの時期を過ごせますよう、どうぞお早めの対策を。
さて、皆さんはブータンという国を知っていらっしゃいますか。中国とインドに挟まれた、ヒマラヤの奥地にある人口63万人の100年前から続く王国です。他国との交流はあまりなく、ひっそりと暮らしてきた農業国でもあります。
この国は発展途上国の範疇に入る国ですが、自らの意志で「近代化をあえて急がない」というユニークな政策をとっています。1972年に第4代国王がGNH(グロス・ナショナル・ハピネス:国民総幸福)という理念を発言して世界にこの言葉が知られるようになりました。
GNHは経済の力を数字で表したGNP(国民総生産)と対比した言葉で、経済指数などで示される物質的な豊かさとは対照的に、精神的な豊かさこそが国民の幸福につながるという考え方です。「自然環境を守りながら、近代化をあせらず、ゆっくりと発展していこう」という哲学のもと、様々な政策が実現されつつあります。
そしてその結果、ブータン全国民の97%が幸福だと思っているというのです。そこで今回は、ブータンの掲げるGNHを推し進める具体的な内容や現状を「幸福王国 ブータンの智恵」という著書からご紹介しましょう。
大きな国はめざしません:ゆっくり近代化しています。「国民の幸せ」を政策化しています。外国からの援助ばかりに依存しません。アメリカなどの大国とは付き合いません。役人はワイロと無縁です。だれでも国王と会うことができます。
お金持ちにはなりません:巨大なダムはつくりません。地下資源は、掘りおこさないことにしています。森林は国土の六割を下回りません。特産物は水力発電です。観光客は無制限に呼びません。ほとんどの野菜は無農薬です。飢饉で飢えたことはありません。
自然を守ることが一番大事です:貧しくても学べるように、教育費はただです。病院も無料です。水道代も無料です。国じゅう、禁煙です。ホームレスはいません。野生動物は殺生しません。土地のない人は国王がプレゼントします。派手な披露宴はしません。小さな子供でも英語がペラペラです。初雪は、休日です。
ゆっくり幸せになります:家を継ぐのは女性です。みんな、3世代、4世代の大家族です。以外にも離婚の多い国です。葬式になると、忌引で21日間休みます。孤児はいません。病気になると、病院よりまず寺に行きます。
国教はチベット仏教で「奪わない、嘘をつかない、自分だけの幸せより、周りみんなの幸せを考える」という教えが国民の心にあるから、GNHを政策として進められているという一面もあるでしょう。いじめで中学生自殺、親による実子の虐待死、年間自殺3万人、うつ病患者100万人といった日本の現実は、ブータンでは考えられないことでしょう。
人間の本当の幸せって行き着くところ、「人と人との温かいつながりの中で、仲良く生活できること」にあるのではないかと思うのですが、今の我々の生活中では結構難しくなってしまいました。便利さや経済力と引き換えに、大切なものを失いつつある我が国は"ブータンの智恵"に学ぶ時が来たのかもしれません。
平成22年3月8日 院 長