院長の部屋 39号 周りを見る
次第に寒さも増してきました。街ではクリスマスに向けてイルミネーションやクリスマスツリーが飾られ年末に向けてなんとなくあわただしくなりつつあります。皆さんはこの年の瀬をいかがお過ごしでしょうか。
先月、この場でご紹介した栄養疫学のエキスパート、東大教授の佐々木敏先生から栄養と健康・疾病について多くのためになる話をお聞きしたことを書きましたが、その中から少し話題を取り上げてみます。
- 日本人は米を精製して真っ白な米を食べる人が多いが精製する段階で捨てられる米糠にビタミンや食物繊維などからだに大切な要素が沢山含まれている。玄米だと消化の問題もあるので、すべての人に勧めることは難しいが、胚芽米や5分づき米などであればそれほど問題なく食べることができるので、是非精製度の低い米を食べよう。栄養は白米の周りにある。
- ジャガイモ、りんご、ブドウなどヨーロッパでは皮ごと食べるので食物繊維を豊富に摂取できているが、日本人は皮をむいて食べるので折角、野菜や果物を多く食べても食物繊維摂取量が低くなっている。食物繊維は作物の周りにある。
- 野菜を茹でたり煮たりする時に日本ではカリウムの多く含まれる煮汁をアクと一緒に捨ててしまうことが多い。煮汁の中にはカリウムが豊富にふくまれ、カリウムを摂取することで体内のナトリウム(塩分)が排泄され高血圧などによい効果がでるが、煮汁をすててしまうことはもったいない。カリウムは野菜から出た煮汁(周り)に存在する。
- ワインを飲む人は循環器系疾患の罹患率が低いというフランスのデータがあり、ワインに含まれるポリフェノールによるものと言われている。しかし実はワインを飲む人がワインと一緒に食べる食べ物、つまりワインに合う食材が健康によいものであり、循環器系疾患の罹患率を低くしているという疫学データも存在する。ワイン自体が体によいというより、ワインとともに食べる食材、つまりワインの周りにある食材が健康によいのだ。
- アルコールを少量飲む人はアルコールを全く飲まない人より長生きするというデータがあるが、アルコールそのものによる効果というより、少量のアルコールで適度のストレスを解消し、手軽にリラックスする手段をもっているという、アルコールの周りに長生きする秘訣があるのかもしれない。(この説は佐々木教授の仮説のため検証されてはいません)
以上のようにココア、ブルーベリーなどテレビで何々が健康によいときくと一時的にブームになりますが、その食べ物に含まれるある一つの成分が健康によいこともあるでしょうが、実はその食べ物・飲み物の周囲に目を向けるということがとても大切なのだということを教えていただきました。
ちなみに食物の中の○○○という物質が体の○○○に良いというデータを出しているのは農学部出身の研究者が多く、人体に詳しい医学部以外の方の研究がほとんどだとか。佐々木教授の多くの研究結果を日本人に広く知ってもらうことが、正しい食育教育になるのだと私は確信しています。
皆さん、物事の周りをみること、できてますか?
早いもので、今年もあとわずかとなりました。皆さんにとって来年もどうぞよい年で ありますように!!
平成21年12月10日 院 長