院長の部屋 103号 海外巡回診療 Vol.1 旅立ち
時は遡ること25年前、私が鹿児島大学医学部皮膚科に勤務していた頃の話。海外で医療事情に恵まれない地域に暮らす邦人に対して、外務省の外郭団体である「日本国際医療団」が取り仕切る海外巡回医療相談(巡回診療)というプロジェクトがありました。
海外巡回医療相談は日本人が住む海外で医療事情に恵まれない地域を15グループに分けて派遣される医療チームです。15の大学病院に医師の派遣依頼があり、1チーム3名の医師が推薦されます。医師の構成は内科医1名、そして小児科医また産婦人科医のどちらかで1名、残りの1名はどんな専門科でもよいという決まりとなっています。旅好きな私のこと知っているK教授がこの派遣枠に私を推薦していただき、私は平成6年にインドネシアチーム、平成7年に中近東チームのメンバーに選ばれました。これから数回にわたって、海外巡回診療の思い出を振り返ろうと思います。
平成6年、インドネシアへの巡回診療に出発する前日、外務省に立ち寄り、派遣医師としての任命書と公用旅券を渡され、その後インドネシアについての様々な説明を担当官から受けました。数年前までバックパッカーとしてTシャツにジーンズ姿で安宿を渡り歩いてきた私にとって、緑色の公用パスポート、そしてビジネスクラスのエアーチケットがなんとも嬉しく、公的任務とは言え心弾む旅立ちを迎えました。
そして翌日、インドネシアのゲートウェイ、ジャカルタに向けて出発です。ジャカルタの空港に着くと日本大使館員の方が我々を迎えに来て下さっていました。入国審査のために並ぶ大勢の人々を横目に、大使館員の誘導で我々は公用の入国審査ゲートをほとんどフリーパスで通過しました。このような経験も初めてなので、これから3週間どんな出来事が待ち受けているのだろうかとワクワク感いっぱいです。
ジャカルタ入りした夜、書記官、医務官の方々数名とレストランで食事をしながら、巡回する地域の状況説明を受けました。ジャワ島のスラバヤとスマラン、カリマンタン島のバンジャルマシン、スラウェシ島のウジュン・パンダン(現在マカッサルと改名)、ニューギニア島の西パプア州ソロン、アンボン島(セラム諸島)のアンボン、バリ島のデンパサールと3週間かけて島から島へと国内線を乗り継いで7都市を巡回します。気候、食生活、衛生面など日本と異なる環境で生活する邦人の皆さんの健康不安に対する相談と簡単な治療を行って周ります。
その際に同席されたA医務官から、外務省医務官の業務内容を聞かせて頂く機会を得たり、手相を見るのが得意な書記官の方に私の手相を見てもらったりと和やかな雰囲気の中でインドネシア第一日目が過ぎてゆきました。
さあこれから3週間、小児科のB先生を団長に、内科のC先生、そして私の3名で、7都市への巡回診療が始まります。巡回診療を通してどんな社会貢献ができるでしょうか。どんな出会いが待っているのでしょうか。期待と不安を抱いて最初の巡回都市カリマンタン島のバンジャルマシンに向けてジャカルタを出発します。
海外巡回診療 Vol.2 インドネシア編 に続く
平成31年3月27日 院長